執筆

執筆一覧

私の発表会【飛翔コンサート】を通じて

登録日時:2009-12-24 / 更新日時:2009-12-24
雑誌 ”レッスンの友” 2007年1月号 (2006年1月24日)

表会を毎年、よくこれだけ続けられたものと、自分でも驚いています。昨年40周年(40回目)の門下生&門下出身生を交えて記念コンサートをやり終えたばかりですが、40年を振り返ってみると、走馬灯のようにいろいろな出来事が思い出されます。その間には失敗ももちろんありましたが、それらを糧にしながらどうにか年輪を重ねることが出来ました。

最初の発表会は確か“埼玉銀行松原支店”(現在の“りそな”銀行)の2階を借りて行ないました。その頃は草加に住んでいて、アプライトピアノをヤマハ特約店のニコニコ堂さんから借りたように記憶しています。【写真が残っていました!】

その頃(旧姓、西村)茂木裕子さん・・(後にドイツ、ミュンヘン音大に留学。チェンバリストとして活躍中)は、当雑誌“レッスンの友”誌の取材を受けて、昭和45年3月号の表紙にもなりました。同じく留学生であった茂木大輔氏(N饗オーボエ奏者)と大恋愛の末、息子を率いて帰国。その後の茂木氏の頑張りはさすがで、軽妙な文章で執筆なさっていますが、それを見る度、裕子さんとの様子が思われます。
帰国して1度我が家にいらしたことがあるのですが、息子さん(確か4,5歳?)が、おもちゃのオーボエを吹く真似をすごいかっこよく(ご主人の茂木大輔氏の影響大のようです)やってくれたことを思い出します。その時の息子さんは、もう20歳以上でしょうか。ママとは40周年記念コンサートの時にお目にかかりましたが・・・。

テニスはプロ級の腕前といわれている金井敬子さんも、1回目の発表会から参加されています。20数年後には娘の治子さんも私のところにやって来ました。話を聴けば十数年前にレッスンを中断したそうで、ピアノをもう一度きちんと習いたいとのこと。そうして再び始めた治子さんは瞬く間に上手くなり、日本アマチュアコンクールなどで優勝しています。ちなみに、お医者さんのご主人も同じコンクールで優勝したそうです。

生徒には、現在も連絡を取り合っている方とそうでない方の2つに分かれますが、取っている方は、それなりにこのピアノを原点にした生活をされている人たちと言えましょう。      
平嶋裕美子さんも門下歴の長い方で、現在PTNAステップのアドバイザーや、指導者として活躍しながら演奏活動なども前向きにこなしている一人。加島朋子さんは音高を卒業した後、しばらくピアノから離れ、数年後イギリスの英国王立音大に短期留学して(1年間)日本に戻り、現在、友達と組んでコンサートを開催しながらレッスンに来ている。西之原(旧姓、白川) 真理子さん始め、有名音大を卒業なさり、教育者として頑張っておられる方々も数名います。

ではこの40年の長い歴史の中でひときわ目立った生徒たちのことにも触れてみましょう。
初めて東京芸大付属高校に入ったのは弓削田優子さん。彼女は入試の1ヵ月ほど前から、心労で食事が喉を通らなくなってしまい、大変心配させられたことを今も思い出します。1次、2次・・・と、試験が続くのですが、弓削田さんときたらその度ごとに“先生、上手くいきませんでした・・もう駄目・・落ちます!!”と、言ってはお母様や、私を震え上がらせておりました。そんなことを言いつつ合格。本当に身がよじれるぐらいひやひやさせられました。その弓削田さんも入学後の高良芳枝先生などのすばらしいご指導によって、東京藝大の大学院まで進みました。彼女は現在、尚美学園音大の講師、二人の子供の母親、そして演奏家として活躍しています。その後に続く東京藝大付属高校や東京芸大ピアノ科、桐朋音大、東京音大P演、国立音大、東京芸大楽理科に進んだ門下生にどんなにか勇気と励みを与えてくれたことでしょう。何事も先駆者になるということは大変なことです。

根津理恵子さんは4歳ごろ門下生としてレッスンに通いだしました。週に1度のレッスンの度にバスティーンの教材を1冊こなしてしまうその読譜力の凄さとその能力にびっくりさせられたことをよく覚えています。ピアノが大好きで、お母様の根津栄子先生の話では、黙っていても7,8時間ぐらい毎日弾いていたようです。それに影響を受けた同年代の生徒たちが、そのくらい弾かなくてはだめかしら・・・と、真似をした人もいたようですが、理恵子さんだから出来たことで、誰でも出来ることではありません。然るべくしてピアニストになったと申せましょう。

また、大崎結真さんも同じく大変な資質を持ち合わせており、読譜力、反応力は抜群でした。確か小学4年の頃、合歓の里でドレンスキー先生を中心にした10日間ぐらいの合宿があり、このオーディションに難関を突破して受講できたことや、私も何日か付き添っていったことなど思い出されます。このお二人‘根津理恵子さんと大崎結真さんは、昨年のショパン国際コンクールに出場し、共にファイナリストになりました。

最近では石綿絵美さんの昭和音大での助手&非常勤講師をこなしながらの演奏活動も、側で様子がわかるだけに、その努力振りは賞賛に値します。他にも桐朋音大出身でドイツ在住の植原礼さん、桐朋音大入学の一番乗りの花形秀子さん、そしてエコールノルマル音楽院卒で、フランスで結婚された竹村佳代さん、ミュンヘン音大大学院を卒業して帰国したばかりの竹村有輝さんなど、これからも日本で益々頑張って欲しいところです。

一方門下のおチビちゃんたちも、これから先道中長いですが、それぞれ頑張ってくれており、先が楽しみです。在学生も各自上達しながら意欲的にピアノに取り組んでいる生徒が多くなり、私も気を張りながらの毎日です。藤原美希さんのアメリカでの頑張りや、中澤真麻さんのウイーン留学、今西泰彦君の藝大大学院入学など、朗報もキャッチしています。
そんなこんなで様々な生徒が教室に留まり、そして卒業していきました。

この40年の間、途中24年目ごろに、定期検診で異常ありと出てしまいました。肺のレントゲンに影有り・・。CTスキャンで、心臓の脇に3センチほどの袋状のものが付着していることが見つかったのです。当時の癌研病院の診断結果は、悪性かどうかは検査だけではわからないので、開く(手術する)必要があるとの事。当然ショックで、自身の人生もいよいよ終結らしいことを考えざるを得なくなりました。私がここまでやって来たのも生徒あってです。人生が終わるのであればその証として、生徒に何か還元出来ることはないかとの思いが強くなりました。そこで当時、根津理恵子さんのお父様(N響のヴァイオリン奏者)を介して、N響の団友オーケストラを紹介していただき、それをバックに門下生及び門下卒業生が、モーツアルトのピアノコンチェルトKV、488やショパンピアノコンチェルト1番などを演奏しました。

ちょっと物入りではありましたが、いろいろな方々に支えられて無事終了したのでした。    
その後、心臓の付着物は悪性でないことが判明!そのまま生きながらえて現在に至ります。しかし、この癌研病院での入院は私の人生にとって大変貴重な体験でした。生きることの幸せをいやというほど実感させられたのです。
その後、この事がきっかけで門下生と門下出身生を交えながら記念コンサートを5年ごとに開催しています。(コンチェルトは大変な費用がかかり、このとき限りでしたが)

今までに門下出身生からは植原礼さんや、弓削田優子さん、長澤優子さん、石綿絵美さん、竹村佳代さん有輝さんなどにも出演していただきました。35周年には日本アマチュアコンクールで優勝をした金井治子さんや現在アメリカで研鑽中の藤原美希さん、そして根津理恵子さん。昨年は大崎結真さんの顔もあり、コンサートを盛り上げてくれたのでした。

まもなく41回目の飛翔コンサートをリニューアルされたカワイ表参道【以前のカワイ青山】で行う。この原稿が雑誌に出る頃は飛翔コンサートも終わり、新しい年を向かえてあたふたしていると思います。
思えば長い年月、生徒との生活を送って来ました。そのおかげで現在、昭和音大で教鞭をとる立場にいます。学生たちとのレッスンでのやり取りは私に違う力を呼び起こしてくれています。

あらゆる層の方々のレッスンをさせていただきながら、自らもいろいろな曲の勉強を強いられている?とも言えます。それにしてもなんとピアノ曲は多いことか・・・!!
私の発表会はいつまで続けられるのか・・・神のみぞ知る・・・。
現在わが教室にはアジア圏の方々も在籍しており、それぞれ私を支えてくれていることはうれしい限りです!これからも体に気をつけて、この門下生の人たちのためにももっともっと死ぬまで前進の精神は忘れないで・・と、思う毎日です。

入試当日のトラブルを想定し、その対策を考える

登録日時:2009-12-24 / 更新日時:2009-12-24
雑誌 "ショパン" 2006年12月号 (H18/10/20)

________________________________________
1 前日眠れなかった!

A、(起こらないようにするためには・・。)

入試は人間の一生の中でも一つの大きな節目。

 したがって結果のことを考えすぎると、どうしても興奮して眠れなくなるものです。しかしこの節目を迎える前の3ヶ月、半年をどのように入試課題と取り組んできたかにつきます。疎かに出来ないのは体のコンディションのことです。疲れが溜まりすぎるような前日の迎え方は最悪なので、1週間程前から入試時間に調子が出るようにピアノを弾く時間を調整することが大切です。体が凝っているようであれば(ピアノ科受験生の場合、間際になって急激にピアノを弾く時間を増やす人が多く、腕,肩・・肩甲骨の下辺りが凝りやすい)3,4日前に凝りをほぐす対策も考えましょう。又受験生はとかく夜型人間が多いので、夜も早めに休むことに慣れる必要があります。自信を持って当日を迎えるためにも、不安材料を出来るだけ減らさなくてはいけません。

B、万が一眠れなかったらどうするか・・・。 

 心を安定させる様な音楽としてモーツアルトの作品、ピアノ曲でも入試に関係ない曲やオペラのCD・・(元気のいいものは避けましょう)とにかく旋律のきれいな音楽がいいでしょう。或いはDVDなどあればいいかもしれません。見聴きしているうちに眠くなればしめたもの!そのまま眠ればいいのです。スイッチを消したりすると現実に戻り、目が冴えてしまうことも考えられます。そのまま寝てしまうのです。或いはミルクを飲むかアメをなめることも睡眠導入には良いそうです。後、太陽の光線を浴びると、脳のドーパミンが増えてよく眠れるということも聞きます。前日天気がよければちょっと日向ぼっこしてはいかがでしょうか。それでもだめな場合にはやるだけのことはやった・・なるようにしかならないもの・・・。と、開き直るのも良いかも・・。人間は気持ちの持ちようで変わるものです。

________________________________________
2 緊張!あがってしまった!

A、あがらないようにするには・・。

 上がるのは誰でも同じこと!問題はどれだけ自信の持てる状況にあるか・・です。後は集中力がものを言います。その方法として、出来栄えを受験校の先生に聴いていただくのも一つの方法ですが、それでもあがりそうという方は、弾く前に集中するための方法をご自分のキャラクターに合わせて考えることが大切になります。私の門下の生徒たちもいろいろ考えているようで、中には弾く前に歯をグイット 食いしばるとか、ホールの階段を上がったり下がったりして先に心拍数を上げていくとか、これらのことは一人一人の性格によって多少違ってきます。受験曲に関してやるだけのことをやっていたのであれば、後は集中力の問題・・!ご自分なりに合った方法を上記のことを参考にして探ってみてはいかがでしょうか。

B、万が一上がってしまい、目の前が真っ白になるようなことが起こったら、焦ることは禁物!

 その後で、取り戻せばよいのです。良い演奏が出来れば、入試の場合は出来具合プラス、元来の資質も問われます。したがってご自分の良さを出すべく、開きなおることも大切です。問題はパニックになり最後までそのままいってしまうか、すぐ切り替えられるかどうかにかかってきます。

________________________________________
3 体調を崩した!

A、崩さないようにするためには・・。

 やはりバランスよく栄養を取ることはもちろん大切ですが、十分な睡眠をとることも大切です。特に受験4,5日前ぐらいから、このことは非常に大切になります。リサイタルの時など直前のあり方の一つとして、前日、或いは弾く数時間前に仮眠が出来たらそれは成功すると言われています。つまりこのことによってより集中力が増すからなのです。体力づくりに水泳やテニスなどのスポーツをやるのも理想ですが、まず殆ど無理かもしれませんね。ピアノを弾くためには、十分な時間も必要ですし、学校の勉強もあります。楽典などソルフェージュも勉強する時間が必要です。皆さんそれは大変な思いをしながら両立されているようです。

B、体調を崩してしまったら・・。

 本番当日高熱が・・・。このようなことはコンディションの持っていき方に失敗したということになりますが、動きが取れないほどの熱でしたら、命には代えられません・・。一生は長いのです。体を壊しては何にもなりません。運がなかったとして諦めましょう。その代わり次の年には、このことは痛い教訓として活かすことが何より大切になります。人間の体には限界があり、特に若いうちは無茶が可能ですが、つけは必ず来るのです・・・後になって・・。つまりご自分の限界を知ることも生きていく上で非常に大切なことなのです。

________________________________________
4 会場を間違えてしまった! 

A、会場を間違えないために・・・。

 試験前に入試の会場へ足を運び、場所の確認とどんな交通機関を利用するか、その時間のかかり具合などを調べることは、人生の節目での門構えに入るのですから、当たり前です。当日余計な神経を使わなくてすみますから、本番での疲労度も違って来ます。つまり疲れは、集中力を発揮するためには一番の元凶なのです。心しましょう。

B、万が一間違えたら・・・。

 言語道断!そんな・・門構えにもたどり着けないようなことでは、所詮入試はおぼつかないでしょう。余程ぼ?っとしているか、入試に対してあまりにも意識が散漫としか言いようがなく、何も言うこと無し・・・です!

モーツァルト 幻想曲 ニ短調 K397

登録日時:2009-12-24 / 更新日時:2009-12-24
雑誌 "ショパン" 2005年9月号
21世紀に弾きたい曲 『コラム、教えるポイント』

 この曲は小規模ながら、モーツアルト独特の世界がふんだんに生かされたすばらしい作品です。
はじめからこの曲のファンタジーを音に託して、ドラマチックに(ただしモーツアルトだということは忘れずに・・・)表現しましょう。
出だしはAndanteですが、次のAdagioへの自然な誘い込みが何より肝心です。
2小節ごとのハーモニーの分散和音を、色濃くその音色感を膨らませてそれを変化させながら大きく1つにまとめ幻想の世界へ、そしてAdagioへ・・。
その際2/2拍子ということも脳裏におきましょう。
 次のAdagioはバランスに気おつけて、メロディーは2小節をひとつにしっかりと横に引っ張って、1小節ごとにならないように。
それには右手の”ソファミレド等の”表現がものをいいます。
左手の3度の重音はバランスに十分熟慮しながら、出すぎずに一音一音置き換えるように弾くことが大切です。そして均等に丁寧に表現しましょう。
28小節目のフェルマータまで、次から次えとドラマ性を感じて誘い込むように表現します。
Prestoは自由に音色の流れを生かして一気に。
AdagioのテーマがD?moll、A?mollそしてD?mollに再現され、減7の分散で緊張させながら上に上り詰めて、Pで属調へ、次のAllegrettoへ誘い込みます。新たな幕開けです。ここはAllegretto、早く弾き過ぎないように。
 70小節目の左手の16分音符の細かい分散音は並べたような弾き方は厳禁です。
分散音の軸を捕らえてバランスに極力留意しながら、音楽にしましょう。
 86小節のカデンツは音形の流れを生かしてトリルへ。エレガントにAllegrettoのテーマに誘い込みましょう。コーダはきっぱりと快活に締めくくります。
 全体の構成を良く掴んで、それぞれの性格をファンタジックにイメージしながら、次々誘い込みながら、大きく1つにまとめる事が大切になります。
この曲は譜面は易しいが、モーツアルトの世界を満喫するためにも、練りに練って表現する必要がありそうです。

ドビュッシー 亜麻色の髪の乙女

登録日時:2009-12-24 / 更新日時:2009-12-24
雑誌 "ショパン" 2005年8月号
21世紀に弾きたい曲 『コラム、教えるポイント』

「前奏曲集」第1巻の8曲めにあたる「亜麻色の髪の乙女は、
フランスの詩人、ルコント・ド・リールの中の詩で”スコットランドの歌”の一節です。
 この繊細で美しいメロディーラインは、演奏するものの心を夢の世界に引きずり込む魔力を持っています。ただし音の出し方(弾き方)でずいぶん変わってしまうのも、この曲の大きな特徴でしょう。五音音階の流れの中で8分音符1つと16分音符2つの音形の下がり上がりの動きが大きな特徴として見られます。この音形の流れの中に何をイメージするかによって、音楽の構築が全然違ってきますが、レガート奏は絶対に欠かせません。
そして根底に宿されているフランス印象派のドビュッシーの音色観は、決してないがしろにしないようにしましょう。
 この曲のフレーズはあたかも何か不安な心情を訴えているような、うつろな心のうちを表現しているといえましょう。つまり出だしのフレーズで、そのファンタジーをイメージして、
右手5の指は音の響きを味わいつつも、指を起こして次に流れる音の行方を追いながら、1の指に向かってレガート・・・。
そして逆の方向も同じように奏する必要がありそうです。
左手はそれらを支えるかのように、重音の流れの色の変化とそのラインを生かして、横に大きくフレーズをつかみながら、音楽を誘い込むようにしてレガートにまとめましょう。
19小節目(un peu anime)からは21小節目の頂点迄、その不安感を払拭するかのように、勢いよくそこへ上り詰めます。
この際左手の音楽を決して粗雑にしないように・・。右手とのバランスに気をつけながら
、この繊細な中でも、思い切ったような音楽の表現を全神経を集中して生かすように心がけましょう。 
24小節目からは、気持ちを払拭しきれず・・ぬぐいきれない不安が残ります。
33小節目からはのコーダは、付点のハーモニーの流れの上に、諦めの境地を音に託したかのように、やるせない音形の流れとメゾスタッカートの音が、36小節の付点2分音符に向かってそ?っと消え去るように流れます。イメージを大切にしながら、この曲を味わうと、尚いっそう音の世界が広がることでしょう。 

フォーレ 舟歌 第3番 

登録日時:2009-12-24 / 更新日時:2009-12-24
雑誌 "ショパン" 2005年6月号
21世紀に弾きたい曲 『コラム、教えるポイント』

 フォーレはこの舟歌と題した作品を13曲残していますが、この初期の舟歌は、物悲しい哀愁を帯びたメロディーラインを軸に、物語を語るような語り口(フレーズ)の流れの中で、フォーレ独特の気品ある雰囲気(和声)とイマジネーションを常に
感じながら、舟歌独特の8/6拍子や8/9拍子を生かして演奏することが何より大切になります。したがってハーモニーの中に隠されているメロディーラインに注意しながら、左手のハーモニーの分散和音など、バランスに気をつけて表出する必要があります。
とくにメローディーラインをレガートに生かしながら、綾をなすように細かい音形が左右の受け渡しや、間を縫うように走りますから、モチーフやフレーズごとに音色を 変えることと、それを彩る細かい動きとのバランスを取りながらの表出は欠かせませ ん。
 音楽的に大変高度なテクニックが要求されます。良い耳をもとに、コントロールさ れたバランス感覚と、音の流れの行方を追いながら、たとえば幕が変わるごとに (大きな流れの変わる部分、A「憂愁の色が濃いが気品漂う」B「41小節のCis音から、やはり気品漂う中で、明るい兆しが……」C「91小節の後、あたかも何事もなかったかのように……」A「121小節目で再現部、ベールに包まれて、思い出のかなたに……」という具合に)、イメージを膨らませつつ音色を変えることが大切になりましょう。
そして大きくフレーズをまとめる必要があります。
音楽的にハイレベルな技術が伴いますが、噛めば噛むほど(弾けば弾くほど)味わい深く、フォーレの世界を満喫できるすばらしい曲と申せましょう。